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東京高等裁判所 昭和41年(ラ)591号 判決

抗告人 渋谷信用金庫

右代理人弁護士 馬場正夫

主文

原決定を取消す。

本件競落は、これを許さない。

理由

本件抗告理由の要旨は、抗告人は、株式会社ミタカ商会に対する元本三九八万〇二四四円と遅延損害金債権につき抵当権実行のための競売申立をしたところ、原裁判所は、担保物件たる(一)東京都北多摩郡久留米町大字南沢字中丸前一一三三番一三宅地五六坪五合八勺(二)同所同番一八宅地四坪五合九勺同所同番一三家屋番号同町一一三三番木造瓦葺二階建居宅一棟建坪一二坪二合五勺二階三坪七合五勺を競売期日の昭和四一年九月二七日午前一一時競売に付した結果、(三)の建物についてのみその最低競売価額一六九万一九七〇円で競買の申出があり同月二九日最高価競買人に右(三)の建物につき競落許可決定を言渡したが、右(一)(二)(三)の不動産の最低競売価額は、これを合計しても債権者たる抗告人の債権額を下廻るのみならず、右各不動産は、同一人の所有に属するので、これを個別に競売し、右建物とその敷地たる(一)の土地の所有者を異にするにいたるときは、敷地につき法定地上権が生ずるにもかかわらず、原裁判所は、これらの点を看過し、漫然と個別競売に付し右建物についてのみ競落を許可したのは違法であるというのである。

記録によると、昭和四一年九月二七日午前一一時の競売期日に右(一)(二)(三)の不動産が個別に競売に付され、酒井秀夫が(三)の建物のみについて抗告人主張の最低競売価額による競買の申出を為し、その結果同月二九日同人に対する競落許可決定が為されたことが認められる。

思うに右各不動産は、いずれも川淵雅之の所有にして、鑑定人浜中武治作成の昭和四〇年一二月一六日付評価書によれば、(三)の建物は、(一)の土地の上にあることが認められるので、(一)の土地と(三)の建物を個別に競売に付し、その一方のみが競落されると、(一)の土地について法定地上権が生ずる結果、(一)の土地の価格は地上権のない場合のそれと較べてきわめて低廉となり、一方地上権付建物の価格は地上権のない場合のそれと較べて著しく高額となることが明らかであり、しかも右評価書によって認められる上記(一)(二)(三)の不動産の評価額の合計額をもってしても抗告人主張の債権全額に不足するにもかかわらず原裁判所は、この点につき深く考慮を払うことなく、地上権の存否を全く顧慮しない右鑑定人の評価に基き、右不動産の各個について最低競売価額を定め、これを前記競売期日の公告に記載して個別競売に付し、(三)の建物のみの競落を許可したことが記録上明らかであって、従って原裁判所は、最低競売価額決定自体を誤り、ひいて、最低競売価額の公告を欠いたものというべきであるから前記酒井秀夫の競落を許可した原決定は、違法として、取消すべきである。

〈以下省略〉。

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